「帥」

会意。𠂤は師の字における𠂤(祭りの肉)の形と異なり、啓の字に含まれる戸(神棚の片開きの扉の形)に近い。上下にある神棚の片開きの扉に巾(ふきん)を加えてふき、神棚を清めることを帥というのであろう」

[考察]
𠂤が戸に近いというが、戸には見えない。また、戸が神棚の扉というのもおかしい(498「戸」を見よ)。また、上下にある神棚の扉」とあるが、扉は左右に並ぶものであろう。帥に「神棚を清める」という意味があるだろうか。そんな意味はあり得ない。
白川漢字学説は字形から意味を引き出す方法であるが、字形の解釈をストレートに意味とするため、図形的解釈と意味を混同する傾向がある。
意味とは「言葉の意味」であって字形にあるものではない。言葉の使われる文脈から判断し把握するものである。帥は古典に次の用例がある。
①原文:子帥以正、孰敢不正。
 訓読:子帥ゐるに正を以てすれば、孰(たれ)か敢へて正しからざらん。
 翻訳:あなたが正義で人々をひきいるならば、正しくならない者はいないでしょう――『論語』顔淵
②原文:三軍可奪帥也、匹夫不可奪志也。
 訓読:三軍も帥を奪ふべし、匹夫も志を奪ふべからず。
 翻訳:大軍であってもその大将を奪うことはできるが、どんな詰まらぬ男でも志を奪うことはできない――『論語』子罕 

①は先頭に立って率いる意味、②は軍を率いる人(大将)の意味で使われている。これを古典漢語では①はsïuәt(呉音でシュチ・シュツ・ソチ、漢音でソツ)、②はsïuәd(呉音・漢音でスイ)という。これを代替する視覚記号として帥が考案された。
sïuәtという語は率ソツ・遵・循・巡・述などと同源である。これらは「ルートに従う」というコアイメージがある。これは「ルートからそれない」というイメージにも展開し、ルートから外れないように人々を導くという意味が実現される。これがsïuәt(帥)である。
帥は「𠂤+巾」に分析する。金文では帥の左側は「|+両手」の形になっている。これは両手で指揮棒を持つ様子である。これに巾(旗印の形)を合わせたのが帥。軍隊を指揮する情景を設定した図形である。篆文では字体が「𠂤+巾」に変わった。𠂤は師などに含まれ、集団のイメージを示す記号(708「師」を見よ)。したがって帥は旗印の下で軍隊を率いる情景を暗示させる。