「酔」
正字(旧字体)は「醉」である。

白川静『常用字解』
「形声。音符は卒。酉は酒樽の形。音符が卒の字に碎(くだく)・蔡(くさむら)など、散乱するの意味があり、酔は酒によって心が乱れることをいい、“よう” の意味となる」

[考察]
音符が卒の字に「散乱する」という意味があるといい、二例を挙げているが、卒は何なのかの説明がない。なお蔡は卒に従わない。萃の誤植か。ただし萃は草が叢生する意味で、散乱する意味はない。
白川漢字学説には形声の説明原理がなく会意的に説くのが特徴であるが、本項は会意的説明になっていない。
醉は語史が古く、次の用例がある。
 原文:行邁靡靡 中心如醉
 訓読:行邁靡靡たり 中心酔ふが如し
 翻訳:どぼとぼと道を行けば 心はまるで酔ったかのよう――『詩経』王風・黍離
醉は酒を飲んで酔う意味である。これを古典漢語ではtsiuәd(呉音・漢音でスイ)という。これを代替する視覚記号が醉である。
醉は「卒(音・イメージ記号)+酉(限定符号)」と解析する。卒は小さくまとまった集団のことから、「小さい」「細かい」というイメージを示す記号になる(625「砕」を見よ。「卒」で詳述する)。このイメージは「細く締まる」「か細い」というイメージにもなる。酉は酒と関わる限定符号である。したがって醉は酒を飲んで意識がか細くなる状況を暗示させる図形。この図形的意匠によって上記の意味をもつtsiuәdを表記する。