「睡」

白川静『常用字解』
「形声。音符は垂。垂は草木の花や葉が垂れ下がる形で、垂れるの意味をもつ。眠くなって瞼が垂れることを睡といい、“ねむる”ことをいう」

[考察]
ほぼ妥当な字源説である。
睡は次のような用例がある。
 原文:讀書欲睡、引錐自刺其股。
 訓読:書を読みて睡らんと欲し、錐を引きて自ら其の股に刺す。
 翻訳:書物を読むうち眠気に襲われ、きりを引き出して自分の股を刺した――『戦国策』秦策
睡は居眠りをする意味に使われている。また、目を閉じて眠るという意味にも転じる。これを古典漢語ではdhiuar(呉音でズイ、漢音でスイ)という。これを代替する視覚記号が睡である。
睡は「垂(音・イメージ記号)+目(限定符号)」と解析する。垂は「上から下に垂れ下がる」というイメージがある(992「垂」を見よ)。睡は瞼が上から下に垂れ下がる情景を設定した図形。この図形的意匠によって上記の意味をもつdhiuarを表記する。
『説文解字』に「睡は坐して寐るなり」とあり、坐りながら眠る、つまり居眠りするという意味である。また「ねむる」という意味にもなる。転義では眠・寐と同義になった。