「穂」
正字(旧字体)は「穗」である。

白川静『常用字解』
「形声。音符は惠(恵)。本来の字は𥝩すいに作り、爪(つめ)と禾とを組み合わせた形で、禾の穂を指先で摘み取ることをいい、“ほ、ほさき”の意味となる。のち字を穟に作り、音符は遂。この遂の音が残って、穂もスイの音でよまれるようになった。恵愛の恵の字とは関係のない字である」


[考察]
なぜ穂に恵が用いられたかの理由が述べられていない。本当に恵とは無関係なのか。字源説としては不十分である。
穂は次の用例がある。
 原文:彼黍離離 彼稷之穗
 訓読:彼の黍離離たり 彼の稷の穂
 翻訳:もちきびはびっしり生い盛り うるきびはいま穂を出した――『詩経』王風・黍離
穗は穀物の「ほ」の意味である。これれを古典漢語ではziuәr(呉音でズイ、漢音でスイ)という。これを代替する視覚記号は𥝩→穟→穗と字体が変わった。
𥝩は「爪(下向きの手)+禾」を合わせたもの。禾はイネが実って穂が丸くなって垂れ下がる姿を描いた図形。𥝩は作物の穂が熟して収穫する情景を設定した図形。穟は「遂(音・イメージ記号)+禾(限定符号)」と解析する。遂は㒸の「上から下に垂れ下がる」というイメージがコアにある(999「遂」を見よ)。穟はイネの穂が熟して垂れ下がる状況を暗示させる図形。穗は「惠(イメージ記号)+禾(限定符号)」と分析する。惠は「丸く回る」「丸く巻く」というイメージから「(周辺から中心に向けて)丸く抱き込む」というイメージに転化する(427「恵」を見よ)。穗は実を丸く包み込む「ほ」を暗示させる。以上のようにコアイメージが「垂れ下がる」から「丸く包み込む」に変わった。字体の変化は語源意識の変化に対応する。