「枢」
正字(旧字体)は「樞」である。

白川静『常用字解』
「会意。木と區(区)とを組み合わせた形。区は多くの祈りの器(ᄇ)を置いて祈る匿された場所。その入り口の回転軸を枢といい、“とぼそ、くるる”の意味に用いる。それは扉の動きをつかさどるものであるから、“かなめ、もと”の意味となる」

[考察]
多くの祈りの器を置いて祈る隠れた場所とは何のことか。この意味の区に木を添えた枢がなぜその場所の入り口の回転軸の意味になるのか。不可解な字源説である。
字形から意味を引き出そうとすると恣意的な解釈になりがちである。意味から逆に字形を考えるべきである。意味を知るには言葉が使われている文脈に当たればよい。樞は古典で次の用例がある。
①原文:桑以爲樞。
 訓読:桑を以て枢と為す。
 翻訳:桑でとぼそを作る――『荘子』譲王
②原文:其樞在水。
 訓読:其の枢は水に在り。
 翻訳:問題を解く鍵は水にある――『管子』水地

①はとぼそ(回転軸を差し込む穴)、また、くるる(回転軸の突起)の意味。また、とぼそ・くるる・回転軸を含めた装置の意味である。②は物事の重要な結節点(鍵、かなめ)の意味。これを意味する古典漢語をk'iug(推定音。呉音でス、漢音でシュ)という。これを代替する視覚記号として樞が考案された。
樞は「區(音・イメージ記号)+木(限定符号)」と解析する。區は「狭い範囲に仕切る」「入り組んで曲がる」というイメージがあり、「曲がる」というイメージも表せる(396「区」を見よ)。樞は棒を突っ込む∪形に曲がってへこんだ穴を暗示させる図形。この図形的意匠によって、扉を開閉するために回転軸を差し込む穴(とぼそ)、また、とぼそとくるるをふくめた仕掛けを意味するk'iugを表記する。
とぼそやくるるは扉のつなぎ目のポイントであるので「かなめ」の意味を派生する。要(かなめ)も人体のつなぎ目である腰の意味からの転義である。ちなみに英語のhinge(蝶番)にも「かなめ」の意味がある。