「数」
正字(旧字体)は「數」である。

白川静『常用字解』
「会意。婁と攴(攵)とを組み合わせた形。婁は女子が髪を高く巻きあげた形。これを攴って髪形を崩し乱すことを数という。それは人を責める行為として行われたので、“せめる”の意味となる」

[考察]
巻きあげた髪を打って崩して乱すことが人を責める行為として行われたというが、こんな風俗があったとは信じられない。婁の字形の解釈にも問題がある。また「かず」や「かぞえる」の意味について、「髪が乱れて数えることができない状態となる」からというが、数えることができないことから「かず」「かぞえる」の意味になるということは理屈に合わない。字形分析も意味展開も支離滅裂である。
字形から意味を引き出すのが白川漢字学説の方法であるが、図形的解釈と意味を混同する傾向がある。また字形の恣意的な解釈が多い。それは言葉という視点が抜け落ちているからである。言葉の深層構造に目が行かず、字形の表面をなぞるだけである。古典における數の用例を見てみよう。
①原文:善數不用籌策。
 訓読:善く数ふるは籌策を用ゐず。
 翻訳:最高の数え方は計算器を用いないことだ――『老子』第二十七章
②原文:兵法、一曰度、二曰量、三曰數。
 訓読:兵法には一に曰く度、二に曰く量、三に曰く数。
 翻訳:兵法で[大事なもの]は一は地形の測量、二は物量、三は兵士の数である――『孫子』形

①はかぞえる意味、②はかずの意味で使われている。古典漢語では①②をsïug(呉音でシュ、漢音でス)という。これらを代替する視覚記号として數が考案された。
數は「婁+攴」と分析する。婁は「毋+中+女」がドッキングした形である。毋は「女」に「一」を加えて、横棒で貫くことを示し、中は縦棒で真ん中を貫くことを示した符号。この二つを併せてイメージ記号とした婁は、女奴隷を紐で通して引っ張る情景を設定した図形(屢は「引っ張る」「引きずる」の意味)。いくつかの物を-・-・ーの形にずるずると引きずることから、婁は「数珠つなぎに並べる」「次々に連なる」というイメージを表す記号になる。攴は棒を手に持つ形で、それと関係のある動作に限定する符号に用いられる。數は「婁イメージ記号)+攴(限定符号)」を合わせて、算籌(計算棒)を数珠つなぎに並べる情景を暗示させる。この図形的意匠によって①②の意味をもつsïugを表記する。
白川は「せめる」の意味としているが、これは転義である。過ちや罪状を列挙することを数というのである(『漢語大字典』)。過失を数え上げて責めるの意味である。