「井」

白川静『常用字解』
「象形。井桁の形。井は井桁の形から、“いど、いげた” の意味となる」

[考察]
井の字源説に異説はない。ただし井桁の形から 「いど」の意味が出たのではない。字形から意味が出るというのが白川漢字学説の特徴であるが、これは逆立ちした学説である。意味は「言葉の意味」であって字形から出るのではなく、言葉の使われる文脈から出るのである。
井は古典に次の用例がある。
 原文:井有仁焉 。
 訓読:井に仁有り。
 翻訳:井戸の中に人が[落ちて]いる――『論語』雍也
井は井戸の意味に使われている。これを古典漢語ではtsieng(呉音でシヤウ、漢音でセイ)という。これを代替する視覚記号として井が考案された。
井は井桁を描いた図形である。金文の一つと篆文では井の中に「・」の符号が入っている。これは井戸の中に水があることを示している。古人は「井は清なり」と語源を捉えており、tsiengという言葉は清などと同源で、「汚れがなく澄み切っている」というコアイメージがある。丼の字体はこのイメージを示すもので、青の構成要素ともなっている。