「世」

白川静『常用字解』
「象形。分かれた木の枝に芽が出ている形。新しい芽が出てくることから、“人の一生、生涯、寿命、よ、よのなか” などの意味に用いる」

[考察]
葉の旁の枼に世が含まれているから、上のように解釈したものだが、新しい芽が出る→人の一生などの意味を導くのが疑問。意味展開に必然性がない。
意味は字形から出るものではなく、言葉の使われる文脈から出るものである。古典における世の用例を見てみよう。
①原文:如有王者、必世而後仁。
 訓読:如し王者有らば、必ず世セイにして後仁ならん。
 翻訳:もし王者が現れたら、きっと三十年後に仁の世界が達成されよう――『論語」子路
②原文:文王孫子 本支百世
 訓読:文王の孫子は 本支百世
 翻訳:文王の子孫たちは 一族は百代の後までも――『詩経』大雅・文王
③原文:殷鑑不遠 在夏后之世
 訓読:殷鑑遠からず 夏后の世に在り
 翻訳:殷の鑑[戒めになる事例]は遠い話ではない 夏王朝の時世にあった――『詩経』大雅・蕩
④原文:賢者辟世。
 訓読:賢者は世を辟(さ)く。
 翻訳:賢者は[乱れた]世の中を避けて隠れる――『論語』憲問

①は三十年の意味、②は人の一代(ゼネレーション)の意味、③は時代の意味、④は世の中(世間)の意味で使われている。これを古典漢語ではthiad(呉音でセ、漢音でセイ)という。これを代替する視覚記号として世が考案された。
『説文解字』に「世は三十年を一世と為す。卅に従ひて之を曳長す」とある。意味も字源もこれが妥当である。十を三つ合わせたのが卅(三十の意味)で、最初の十の下部を右の方へ長く引き延ばしたのが世の図形である。thiadという語は曳・洩・延などと同源で、「長く延びる」というイメージがあり、これを世という図形で表現した。親から子に引き継がれていくまでの長い期間(三十年)をthiadというのである(上の①)。これはまたゼネレーション(世代)という意味にもなる(上の②)。ちなみに英語のgenerationは「親、子、孫といった世代、および一世代の平均年月としての30年間」の意味という(『英語語義語源辞典』)。古典漢語の世と英語のgenerationはぴったり対応する。
親→子という世代交代は世の中の変遷につながるので、上の③と④の意味を派生する。