「声」
正字(旧字体)は「聲」である。

白川静『常用字解』
「会意。殸けいと耳とを組み合わせた形。 殸はつるした磬けいを殴ち鳴らす形。耳に聞こえるその鳴る音を聲といい、“おと、ひびき”の意味となる」

[考察」
字形から意味を導くのが白川漢字学説の方法である。殸(磬)+耳→耳に聞こえる磬の鳴る音という意味を導く。
図形的解釈と意味を混同するのが白川漢字学説の全般的な特徴である。
聲は古典では次の文脈で使われている。
①原文:匪鷄則鳴 青蠅之聲
 訓読:鶏則ち鳴くに匪(あら)ず 青蠅の声
 翻訳:にわとりが鳴いたのじゃなく キンバエの声だよ――『詩経』斉風・鶏鳴
②原文:鼓鍾于宮 聲聞于外
 訓読:鍾(かね)を宮に鼓し 声外に聞こゆ
 翻訳:家の中で鐘をたたけば 声が外まで漏れてくる――『詩経』小雅・白華
③原文:君子至止 鸞聲將將
 訓読:君子至る 鸞声将将たり
 翻訳:殿方のお出ましだ 鈴の音がチリンチリン――『詩経』小雅・庭燎

①は人や動物が口から出す音声の意味、②は楽器の出す音の意味、③は無生物の発する音や響きの意味で使われている。これを古典漢語ではthieng(呉音でシヤウ、漢音でセイ)という。これを代替する視覚記号として聲が考案された。
古人は「聖は聲なり」という語源意識をもっていた。聲・聖・聴は同源の語で、「まっすぐ通る」というコアイメージがある。空中を通っていく音、また、耳にまっすぐ通って聞こえる音、これをthiengというのである。
聲は「殸(イメージ記号)+耳(限定符号)」と解析する。殸は「声(∧形の石を紐で吊した楽器の形)+殳(棒を手に持つ形)」を合わせて、楽器を棒でたたいて鳴らす情景を設定した図形。磬という楽器の爽やかな音声のイメージを利用した。聲は楽器の出す爽やかな音を耳で聞く情景を設定した図形である。この図形的意匠によって上記①②③の意味をもつthiengを表記した。