「征」

白川静『常用字解』
「形声。音符は正。正は城壁で囲まれている邑をせめて征服するの意味で、征のもとの字である。それに歩くという意味を持つ彳を加えて、邑に進軍するという意味をより明確にし、“うつ、せめる” の意味に用いる」

[考察]
白川漢字学説には形声の説明原理がなく会意的に説くのが特徴である。正(邑を攻めて征服する)+彳(歩く)→邑に進軍するという意味を導き、「うつ・せめる」の意味になったという。
形の解釈をストレートに意味とし、図形的解釈と意味を混同するのは白川漢字学説全般に見られる特徴である。そのため意味に余計な意味素(邑、進軍)が混入し、意味を曲げる。
意味とは「言葉の意味」であって字形から出るものではなく、言葉の使われる文脈から出るものである。征は古典に次の用例がある。
①原文:肅肅夜征
 訓読:粛粛として夜征く
 翻訳:いそいそと夜に出かける――『詩経』召南・小星
②原文:王往而征之。
 訓読:王往きて之を征る。
 翻訳:王は征伐に行った――『孟子』梁恵王上

①は目的地に進んで行く意味、また、遠方に行く意味、②は敵を討ちに行く意味である。これを古典漢語ではtieng(呉音でシヤウ、漢音でセイ)という。これを代替する視覚記号として征が考案された。
征は「正(音・イメージ記号)+彳(限定符号)」と解析する。正は1012「正」で述べたが、もう一度振り返る。正は「一+止」に分析できる。一は一直線を示す記号。止は足(foot)の形である。足は止まる働きもあれば進む働きもある。止は「止まる」と「進む」の二つのイメージをもつ記号である(681「止」を見よ)。正は一線をめざしてまっすぐ進む情景を設定した図形である。この図形的意匠によって「まっすぐ」というイメージを表現できる。彳は歩行・進行に関わる限定符号である。したがって征は目的地に向かってまっすぐ進んで行く情景を設定した図形。この図形的意匠によって上の①の意味のtiengを表記する。②の「敵を討ちに行く」は①からの転義である。「遠方に行く」の特別な使い方である。