「性」

白川静『常用字解』
「形声。音符は生。生は草の生え出る形。人が本来心のうちに備えている感性や心情を性といい、“さが、たち、うまれつき” の意味に用いる」

[考察]
草木が生える→感性・心情→さが・たちという意味展開の説明は不自然である。三項には関連はあるが、必然的な意味の展開になっていない。性は「生まれつき」だけで十分であろう。
性は古典で次のように使われている。
①原文:習與性成。
 訓読:習ひ性と成る。
 翻訳:習慣は[いつも繰り返していると]天性のように完成してしまう――『書経』太甲
②原文:水之性不雜則清。
 訓読:水の性、雑(まじ)はらざれば則ち清し。
 翻訳:水の性質は不純物が混じらなければ、本来清らかである――『荘子』刻意

①は生まれながら持っているもの(先天的に受けた精神の在り方)の意味、②は物に本来備わる性質や傾向の意味である。これを古典漢語ではsieng(呉音でシヤウ、漢音でセイ)といい、これを性という視覚記号で代替し再現させる。
古人は「性は生なり」という語源意識をもっていた。『論語義疏』 に「性なる者は人の稟けて以て生まるる所以なり」(人がそれを受けて生まれたものが性である)というのが性の定義だが、語源の説明にもなっている。ちなみに英語のnatureはラテン語のnasci(生まれる)やnatura(生まれ)に由来し、「人や物がもとから持っている性質や性分」の意味という(『英語語義語源辞典』)。古典漢語の性とぴったり対応する。
性は「生(音・イメージ記号)+心(限定符号)」と解析する。生は字面は草が生える情景を設定した図形だが、植物・動物に限らず、生命が発生する→生まれるという意味である。性は人が生まれるときに受けたものを暗示させる。人から物へも拡大され、②の意味を派生する。