「盛」

白川静『常用字解』
「形声。音符は成。説文に“黍稷、器中に在り。以て祀る者なり”と、黍稷を“もる”の意味とする。黍稷に限らず、旨酒についても盛るという」

[考察]
白川漢字学説には形声の説明原理がなく会意的に説くのが特徴であるが、本項では成から会意的に説明できず、字源を放棄している。
古典における盛の用例を見てみる。
①原文:于以盛之 維筐及筥
 訓読:于(ここ)に以て之を盛る 維(こ)れ筐キョウ及び筥キョ
 翻訳:それ[摘み草]を盛りつけます 四角いかごに 丸いかごに――『詩経』召南・采蘋
②原文:於斯爲盛。
 訓読:斯(ここ)に於いて盛んと為す。
 翻訳:この時代が最盛期でございます――『論語』泰伯
③原文:有盛饌、必變色而作。
 訓読:盛饌有れば、必ず色を変じて作(た)つ。
 翻訳:[孔子は]豪勢なごちそうを出されると、顔色を変えて席を立った――『論語』郷党

①は器に食べ物を盛りつける意味、②は勢いや力が充実している(さかんである)の意味、③は物がたっぷりある(多い)の意味に使われている。これを古典漢語ではdhieng(呉音でジヤウ、漢音でセイ)という。これを代替する視覚記号として盛が考案された。
盛は「成(音・イメージ記号)+皿(限定符号)」と解析する。成は「仕上げてまとめる」というイメージがある(1014「成」を見よ)。このイメージは「中身が欠け目なくまとまる」というイメージに展開する。盛は器に食べ物を詰めていって、形よくまとめ上げる情景を設定した図形である。この図形的意匠によって上の①の意味をもつdhiengを表記した。
なぜ②の「さかん」という意味に転義するのか。白川は「黍稷を盛る器は簠(うつわ)という。青銅器の簠には大型のものがあり、 多くのものを盛り上げるようにして神に供えるので、“おおい、さかん”の意味となる」と述べている。この転義は大型の器を想定して説明している。必然性があるとは言えない。「盛る」とは欠け目がなく中身がいっぱいになるようにする行為である。物事がいっぱい満ちあふれるような状態でもあるから、上の②の意味に転義するのである。だから③の意味も生まれる。