「精」

白川静『常用字解』
「形声。音符は青。説文に米を択ぶの意味とする。古い文献に、神に供えるための米・麦など五穀のすぐれて美しいものであるとする。のちすべて“きよい、うつくしい、くわしい” の意味に用いる」

[考察]
白川漢字学説には形声の説明原理がなく会意的に説くのが特徴であるが、本項では青からの説明がない。字源の放棄である。
『説文解字』に「精は択米なり」(段玉裁の校訂本)とあるが、米を択ぶとは何のことか。不純物を選り分けて良いものにすることである。しらげる(精白する)、また精白米が最初の意味である。すでに漢の『春秋繁露』に「気の清なる者を精と為す」とあり、精と清を関連のある言葉としている。ぬかなどの不純物を取り除く行為には「汚れがなく清らかな状態にする」というイメージが含まれており、これを表す記号が青なのである。青・清・精は同源の語である。
古典における精の用例を見る。
①原文:食不厭精。
 訓読:食は精を厭(いと)はず。
 翻訳:飯については、[上等の]精白した米が嫌いではない――『論語』郷党
②原文:其中有精、其精甚眞。
 訓読:其の中に精有り、其の精甚だ真なり。
 翻訳:その[宇宙の始まりのカオスの]中に精気があった。その精気は真実の存在だった――『老子』第二十一章
③原文:夫形全精復、與天爲一。
 訓読:夫れ形全く、精復すれば、天と一と為る。
 翻訳:肉体が完全に保たれ、精神が本来の姿に帰れば、人は天と一体化する――『荘子』秋水

①は搗いて白くした米(精白米)の意味、②は汚れのないエキス(純粋な気)の意味、③はたましい(精神)の意味である。これを古典漢語ではtsiengという。これを代替する視覚記号として精が考案された。
精は「青(音・イメージ記号)+米(限定符号)」と解析する。青は『汚れがなく澄み切っている」というイメージがある(1021「青」を見よ)。精は玄米を搗いて汚れを取り去り、澄んだ色にする情景を設定した図形である。この意匠によって、しらげる(精白する)、また精白した米を意味するtsiengを表記した。
「汚れがない、混じり気がない、純粋である」というイメージから、純粋なエキス(精気)という意味に転じた。これは宇宙の人間の根源に存在する気であると考えられた。人間においては生命と身体を成り立たせるだけではなく、魂も精気の一種と考えられ、③の意味が生まれた。