「析」

白川静『常用字解』
「会意。斤おので木を析くこと、木を割ることを示す」 

[考察]
字形から意味を導くと、「木を割る」という意味になりそうであるが、木に限定されない。古典に次の用例がある。
①原文:析薪如之何
 訓読:薪を析(さ)くに之を如何(いかん)せん
 翻訳:たきぎを割るにはどうすべき――『詩経』斉風・南山
②原文:析骸而炊之。
 訓読:骸を析きて之を炊(かし)ぐ。
 翻訳:骨を裂いて飯を炊く――『春秋公羊伝』宣公十五年

①②とも細かく裂き分ける(切り分けてばらばらにする)の意味である。これを古典漢語ではsek(呉音でシャク、漢音でセキ)という。これを代替する視覚記号として析が考案された。
王力(中国の言語学者)は析と斯を同源としているが、藤堂明保は斯(細かく裂く)のほかに省(細かく見分ける)とも同源とし、「細める・小さく分ける」という基本義をもつという。「細かく分ける」というコアイメージと言い換えることができる。
析は「木(イメージ記号)+斤(限定符号)」と解析する。木は樹木という実体をそのまま用いているが、切られるもの(素材)の一つとして利用された。斧のような物を切る道具に関係があることを示す限定符号。したがって析は木を切る情景を設定した図形。この図形的意匠によって、上記の意味をもつsekを表記した。