「席」

白川静『常用字解』
「会意。古い字形は厂と蓆の形とを組み合わせた形。厂は建物の形で、その中にむしろを敷く形であるから、“むしろ、せき、座席、しく” の意味となる」

[考察]
字形から意味を導くのが白川漢字学説の方法である。金文から説明しているが、厂を除いた部分が蓆の形には見えない。「むしろ」の意味を導くために蓆の形を予想しただけであろう。金文からは「むしろ」を読み取るのは困難である。篆文の席の字源を説明すべきである。
古典における席の用例を見る。
①原文:我心匪席 不可卷也
 訓読:我が心は席に匪(あら)ず 巻くべからず
 翻訳:私の心はむしろじゃない 他人が巻くことはできぬ――『詩経』邶風・柏舟
②原文:席不正不坐。
 訓読:席正しからざれば坐せず。
 翻訳:座席が正しくないと坐らない――『論語』郷党

①はむしろの意味、②は坐る場所の意味で使われている。これを古典漢語ではziak(呉音でジャク、漢音でセキ)という。これを代替する視覚記号として席が考案された。
席は「廿(イメージ記号)+广(イメージ補助記号)+巾(限定符号)」と解析する。廿は革の上部だけを利用して革を暗示させる記号で、黃(=黄色)・堇(僅・勤などの基幹記号)などにも含まれている。革は革製品の材料にもなる。广は建物を示す記号。巾は布や織物に関係があることを示す限定符号。したがって席は家の中で革を敷物にして敷く情景を暗示させる図形である。この図形的意匠によって上記の①②の意味をもつziakを表記した。