「責」

白川静『常用字解』
「形声。音符は朿せき。朿は先の鋭くとがった木で、標木として立てることもあり、また突き刺すのに使用する。これを賦貢(税)として納める財物(貝)の上につけて印とすることを責といい、賦貢として納める財物をいう」

[考察]
白川漢字学説には形声の説明原理がなく会意的に説く特徴がある。朿(先の鋭くとがった木)+貝(財物)→賦貢として納める財物の上に標木(目印の木)をつける→賦貢として納める財物という意味を導く。
税として納める財物の上に標木を立てるとはどういうことか。想像しにくい。また責に賦貢(税)という意味があるだろうか。『漢語大字典』や『漢語大詞典』には見当たらない。
古典における責の用例を見る。
①原文:躬自厚而薄責於人則遠怨矣。
 訓読:躬(み)自ら厚くして、薄く人を責むれば、則ち怨みに遠ざかる。
 翻訳:自分を厳しく責めて、他人を軽く責めれば、怨みを買うことは少なくなる――『論語』衛霊公
②原文:貧士之受責於大夫者幾何人。
 訓読:貧士の責サイを大夫より受くる者は幾何(いくばく)人なるや。
 翻訳:大夫から借金している貧乏な士は何人いるか――『管子』問

①はきつくせめたてる意味、②は借金の意味で使われている。古典漢語では①をtsĕk(呉音ではシャク、漢音ではサク)、②をtsĕg(呉音ではセ、漢音ではサイ)という。こられを代替する視覚記号として責が考案された。
責は楷書で字形が崩れたが、篆文は「朿+貝」に分析できる。朿は先の尖った刺(とげ)を描いた図形である。しかし実体に重点があるのではなく、形態や機能に重点がある。機能的には刺すものだが、形態的にはᐱの形を呈する。これが連鎖するとᐱᐱᐱ・・・の形で、「ぎざぎざ」のイメージとなる。また視点を変えれば「ぎざぎざに重なる」「積み重なる」のイメージが生まれる。貝は貨幣や財貨に関わる限定符号として使われる。したがって責は「朿シ(音・イメージ記号)+貝(限定符号)」と解析し、財貨が雑然と積み重なる情景を設定した図形と解釈する。この図形的意匠によって、「積み重なって返済を求められる借金」と、「(返済するように求めて)責め立てる」という二つの意味を表すことができる。前者には債が分化し(上の②)、後者には責が用いられる(上の①)。
 白川は「責める」の意味について、「責は賦貢の意味から、“賦貢をもとめる、賦貢をとりたてる、せめとる” の意味となり、さらに“せめる、とがめる”の意味となる」と説明しているが、前提である「賦貢」の意味がないとすれば、この意味展開は成り立たない。