「潟」

白川静『常用字解』
「形声。音符は舄せき。舄は斥と同音で、斥しりぞけるの意味がある。潮が引いて、干潟となるような地形の所を潟といい、“かた、ひがた”の意味に用いる」

[考察]
舄に「しりぞける」という意味はない。形声文字も会意的に説くのが白川漢字学説の特徴である。本項では舄を斥に読み換え、「しりぞける」という意味として、何とか会意的解釈に持ち込んだ。しかし舄の解釈がないから字源の放棄と見なす。
白川漢字学説には形声の説明原理がない。形声の説明原理 とは言葉の深層構造に掘り下げ、語源的に意味を説明する方法である。
まず古典の用例から意味を確かめる。
 原文:渴澤用鹿、鹹潟用貆。
 訓読:渇沢には鹿を用ゐ、鹹潟カンセキには貆を用ゐる。
 翻訳:枯れた沢では鹿を用い、アルカリ地ではヤマアラシを用いる――『周礼』地官・草人
潟は海水が退いて塩分が残った所(アルカリ地)の意味である。これを古典漢語ではsiăk(呉音でシャク、漢音でセキ)という。これを代替する視覚記号として潟が考案された。
潟は「舄セキ(音・イメージ記号)+水(限定符号)」と解析する。『説文解字」に「舄は鵲なり」とある。カササギを描いた図形が舄である。しかし実体に重点があるのではなく、生態に重点がある。カササギはあちこちに移動して人に幸運を運ぶ鳥と信じられた。だから舄は「ある場所から別の場所に移って行く」というイメージを表す記号になる(755「写」を見よ)。したがって潟は海水を移した後に塩分だけが残った所を暗示させる。上の文献の注釈(唐の孔穎達の『周礼正義』)では「水に近き処、水すでに写して(移って)其の地を去り、鹹鹵(アルカリ地)と為る」と説明されている。
日本人は潟に「かた」の訓を当てた。これは日本的展開である。白川はこの意味で潟の字源を説明している。