「籍」

白川静『常用字解』
「形声。音符は耤。耤の古い字形は耒に足をかけて踏み耕す形で、たがやす、耕して土を細かく砕くの意味となる。昔は腊で、うすく切った乾肉の重なった形であり、そのように耕して土を細かくすることを耤という。籍は薄く削った竹で、これを竹簡として使用した。紙が使用される以前は竹簡・木簡を綴じたものが書物であったので、籍は“ふみ、かきつけ、書物、しるす”の意味となる」

[考察]
耤は「そのように(薄く切った乾肉のように?)耕して土を細かくする」の意味というが、そんな意味はないし、また籍に「薄く削った竹」という意味もない(『漢語大字典』『漢語大詞典』)。
古典における籍の用例を見てみよう。
①原文:據九鼎、按圖籍、挾天子以令天下。
 訓読:九鼎に拠り、図籍を按じ、天子を挟(わきばさ)みて以て天下に令す。
 翻訳:九鼎[天子の象徴]を根拠にし、地図と戸籍を押さえて、天子えお擁して天下に号令する――『戦国策』秦策
②原文:皆去其籍。
 訓読:皆其の籍を去る。
 翻訳:すべてその文書を除き去った――『孟子』万章下

①は人名・人口・土地などを記す帳簿の意味、②は書物・文書の意味である。これを古典漢語ではdziak(呉音でジャク、漢音でセキ)という。これを代替する視覚記号が籍である。
『釈名』では「籍は藉シャ(敷く)なり。人名・戸口を籍疏(上に載せて一条ずつ分ける)する所以なり」と語源を説いている。敷くとはAの上にBを重ねるということである。文字を書いた札を次々に上に重ねて保存したものが籍であり、人口や土地の台帳の意味である。戸籍・版籍の籍はこれである。
籍は「耤セキ(音・イメージ記号)+竹(限定符号)」と解析する。耤は「昔(音・イメージ記号)+耒(限定符号)」と分析する。昔は「重なる」というイメージがある(1046「昔」を見よ)。耒は鋤と関係があることを示す限定符号。耤は鋤の上に土を重ねる(土を掘り起こす)場面を設定し、「上に重ねる」というイメージを表す記号とする。したがって籍は文字や図を書いた竹札を積み重ねる状況を暗示させる。この図形的意匠によって、①の意味をもつdziakを表記した。