「切」

白川静『常用字解』
「会意。七は切断した骨の形。これに刀を加えて、“きる” の意味となる。切迫・緊切・適切・切諫のように、“せまる、ちかづく、するどい”の意味に用いる」

[考察]
切と七は音のつながりがあるから形声のはず。白川漢字学説には形声の説明原理がなく会意的に説く特徴がある。七(切断した骨)+刀→切るという意味を導く。
七は甲骨文字では十の形になっている。これが切断した骨の形に見えるだろうか。無理である。骨の形という解釈は旧来の造形法の分類では象形になるが、六書(象形・指事など)のほかに象徴的符号という概念を導入すべきである。十は縦線の真ん中に横線を入れて途中で切り離す様子を示す象徴的符号と解釈したい。これで「切る」という行為を表象できる。切り離すと半端なものが残る。半端なものが出るという事態に着目したのが数の七である。割ると半端な余りが出る数が七である。これは切る行為の結果に焦点を当てたものだが、原因に焦点を置けば、対象に刃物を当てるというイメージになる。「切る」という行為にはすぱっと断ち切る行為もあるが、刃物を引いてこすって切る行為もある。切はこのような行為を表す古典漢語ts'et(呉音でセチ、漢音でセツ)に対する視覚記号として考案されたものである。
切は「七(音・イメージ記号)+刀(限定符号)」と解析する。七は|の真ん中に―を交わらせて下部を切り離す状況を暗示させ、「AにBを当てて切り離す」というイメージを示す。切は具体的な場面を設定した図形。物に刃物を押し当てて切り離す情景を暗示させる。
切は古典に次の用例がある。
①原文:如切如磋 如琢如磨
 訓読:切セツする如く磋サする如し 琢する如く磨する如し
 翻訳:[骨や象牙を]こすって磨いたように [玉や石を]削って磨いたように――『詩経』衛風・淇奥
②原文:瞋目切齒。
 訓読:目を瞋(いか)らし歯を切セツす。
 翻訳:かっと目をむき、歯ぎしりする――『戦国策』魏策

①はごしごしとこすって切る意味、②はこすり合せる意味である。切断するという意味に取っては②への展開が分からなくなる。白川は「せまる、ちかづく、するどい」の意味に用いると言うが、「切断する」からなぜこの意味になるかの説明を欠く。古人は「凡そ物を以て相摩する、之を切と謂ふ」(『論語正義』)と述べている。刃物を対象に近づけて押し当てて切るという意味の語がts'et(切)である。「(近づけて)押し当てる」というコアイメージがあるので、②の意味へ、また、対象にぴったり当たる(当てはまる)の意味(剴切・適切)、対象に近づく(身近に迫る)の意味(切迫)、心にひしひしと(身近に)感じられる意味(懇切・親切)へと展開する。
言葉の意味展開を合理的に説明するにはコアイメージという概念が有効である。コアイメージは言葉の深層構造をなすイメージである。これが表層に現れたのが意味であり、具体的文脈で使われる。文字の表面からは意味は出てこない。