「拙」

白川静『常用字解』
「形声。音符は出。説文に“巧ならざるなり”とあり、巧に対して拙という。“つたない、たくみでない、へた、まずい”の意味に用いる」

[考察]
白川漢字学説には形声の説明原理がなく会意的に説く特徴があるが、本項では会意的に説明できず、字源を放棄している。
古典における拙の用例を見てみよう。
 原文:大巧若拙。
 訓読:大巧は拙なるが若(ごと)し。
 翻訳:最高の技巧はかえって下手に見える――『老子』第四十五章
拙は技が巧みでない、見劣りがする(つたない)の意味である。これを古典漢語ではtiuět(呉音でセチ、漢音でセツ)という。これを代替する視覚記号として拙が考案された。
拙は「出(音・イメージ記号)+手(限定符号)」と解析する。出は「止(足)+凵(へこみ・くぼみ)」を合せて、足がくぼみから外へ出ていく情景を設定した図形である(838「出」を見よ)。 t'iuәt(出)という語は突・凸・徹などと同源で、一(一線)を基準として上方へ↑の形に突き出るというイメージがある。図示するとᐱの形である。視点を変えれば、∨の形、すなわち「下方に突き出る」「下方にへこむ」というイメージにもなる。したがって拙は手の技が標準よりも下方にへんだ状態を暗示させる。この図形的意匠によって上の意味をもつtiuětを表記した。