「窃」
正字(旧字体)は「竊」である。

白川静『常用字解』
「会意。穴と米と禼せつとを組み合わせた形。禼は小さな虫が集まる形。穴蔵の中に貯蔵している米の中に多くの虫がわき、知らぬまに米を食い荒らすことを竊といい、“ひそかに、ぬすむ”の意味となる」 

[考察]
竊と禼は音のつながりがあるから形声のはず。白川漢字学説には形声の説明原理がなく会意的に説く特徴がある。穴+米+禼(虫)→穴蔵に貯蔵された米を虫が食い荒らすという意味を導く。
図形的解釈をそのまま意味とし、そこから「ひそかに」と「ぬすむ」の意味が出たという。
古典における用例を見てみよう。
 原文:苟子之不欲、雖賞之、不竊。
 訓読:苟(いやしく)も子シの不欲ならば、之に賞すと雖も、窃まざらん。
 翻訳:もしあなた自身が無欲ならば、民に褒美を与えても、それを盗むものはいますまい――『論語』顔淵
竊は他人の物をひそかに盗む意味である。これを古典漢語ではts'et(呉音でセチ、漢音でセツ)という。これを代替する視覚記号として竊が考案された。
楷書では「穴+釆+禼」になっているが、篆文は「穴+廿+米+禼」になっている。禼はある種の虫を描いた図形で、後に契セツや偰セツと書かれる。ここでは偰(くさび)からイメージが取られ、「隙間に食い込む」というイメージを示す記号となっている。廿は共に含まれ、「そろって(一緒に)」のイメージを添える。竊は「禼セツ(音・イメージ記号)+廿(イメージ補助記号)+米(イメージ補助記号)+穴(限定符号)」と解析する。虫が米俵に穴を開けて内部に食い込む状況を暗示させる図形。この図形的意匠によって、上記の意味をもつts'etを表記した。