「雪」

白川静『常用字解』
「象形。空から雪片が舞い落ちる形。“ゆき、ゆきふる”の意味となる」

[考察]
甲骨文字の字形を象形と見たのであろうが、では「雪」という字はどう成り立っているのかの説明がない。雪は明らかに要素に分けられるので象形ではない。
字形から意味を引き出すのが白川漢字学説の特徴である。言葉という視座がないため、言葉の深層構造の探求をしない。そのため重大なことを見落とすことになる。雪には雪辱(恥をすすぐ)という使い方(つまり意味) がある。白川は「刷・拭と音が近くて通用し、“すすぐ、ぬぐう”の意味に用いる」という。「ゆき」と「すすぐ」の関係が分からないので仮借説で説明している。言葉の深層においては「ゆき」と「すすぐ」は関係がある。言葉という視座がないとこれを見落としてしまう。
「ゆき」以外の雪の使い方を古典で見てみよう。
①原文:沛公遽雪足。
 訓読:沛公遽(にはか)に足を雪(すす)ぐ。
 翻訳:沛公[劉邦]は慌てて足の汚れをふいた――『史記』酈生列伝
②原文:管仲雪桓公之恥於小人。
 訓読:管仲、桓公の恥を小人に雪ぐ。
 翻訳:管仲は詰まらぬ人間から桓公の恥を」すすいでやった――『韓非子』難二

①は洗ったり拭ったりして汚れを取り除く意味、②は屈辱や怨みをはらいのける意味で使われている。これらは「ゆき」の意味からの転義である。「ゆき」を古典漢語ではsiuat(呉音でセチ、漢音でセツ)という。これを代替する視覚記号として雪が考案された。
雪は䨮から変化した字体である。「雨+彗」に分析できる。彗は「甡(先が細かく枝分かれした穂の形)+又(手の形)」を合わせて、ほうきを手に持つ情景を設定した図形。彗はほうきの意味だが、実体に重点があるのではなく機能に重点がある。ほうきはごみや汚れを取り除く。「(汚れを)払い清める」というイメージを表すことができる。ゆきは真っ白に一面を覆った景色が汚れを払い清めたように見えるので、「彗スイ(音・イメージ記号)+雨(限定符号)」を合せた䨮の図形が作られて、siuatを表記した。
意味はコアイメージによって展開する。「(汚れを)払い清める」というコアイメージから上の①の意味、そして②の意味へ展開する。