「絶」

白川静『常用字解』
「形声。音符は色。古くは𢇍に作り、織機にかけた織りかけの糸を切断する形で、糸をたつ、糸がきれるの意味となる。のちすべて“たつ、たえる、つきる”の意味となる。絶には色糸の意味もあったらしく、絶妙のようにいい、“はなはだ、このうえなく”の意味に用いる」


[考察]
字形の解剖に問題がある。絶の右上の「⺈」は「刀」の変形であって、色を音符とする字ではない。色に間違ったため解釈がつかず、絶の字源を放棄した。
まず古典における絶の用例を見よう。
①原文:在陳絶糧。
 訓読:陳に在りて糧を絶つ。
 翻訳:[孔子一行は]陳で食糧が絶たれた――『論語』衛霊公
②原文:是絶是忽 四方以無拂
 訓読:是れ絶ち是れ忽(ほろぼ)す 四方以て払(もと)るもの無し
 翻訳:敵国をすっかり滅ぼして 四方はもはや逆らわぬ――『詩経』大雅・皇矣

①はつながったものをたち切る意味、②はつながりが尽きる意味で使われている。これを古典漢語ではdziuat(呉音でゼチ、漢音でゼツ)という。これを代替する視覚記号として絶が考案された。
絶の右上は刀、その下の巴は卩の変形である。したがって絶は「卩セツ(音・イメージ記号)+刀(イメージ補助記号)+糸(限定符号)」と解析する。卩については1065「節」でも述べた。卩は跪く人の図形。跪くと足は∠の形になる。|が∠の形になることは折れ目・切れ目がつくことである。また、直線に切れ目がつくと―|―の形や|―|―|の形にもなる。だから卩は「折れ目・切れ目」「途中で切れ目をつける」というイメージを表すことができる。かくて絶は刀(刃物)で糸を―|―の形や|―|―|の形にたち切る状況を暗示させる。この図形的意匠によって上の①の意味をもつdziuatを表記した。
Aは古文(戦国時代に発生した字体の一つ)で、絶の異体字である。𢇍と㡭は鏡文字の関係である。𢇍が先にできた。𢇍は幺(糸)を上に二つ下に二つ並べ、その中間にᖵ(=刀)を差し入れて、糸をたち切る状況を暗示させる図形。図形的意匠は絶とほとんど同じと見てよい。なお㡭は斷(=断)と繼(=継)で使われている。
白川は絶は色糸の意味があり、ここから絶妙の絶、「はなはだ、この上なく」の意味が出たというが、色糸は文字分析の遊び(謎々)であって、そんな意味があるわけではない。なぜ絶妙の絶(はなはだ)の意味が生じたか。これは意味展開の筋道を考えれば答えが出る。上の①から②へ展開し、さらに、切れ目が入って連絡が絶たれる→懸け離れるという意味(懸絶の絶)、それから、程度が懸け離れて普通ではない(この上ない、最も)の意味(絶唱・超絶の絶)に展開するのである。