「千」

白川静『常用字解』
「形声。音符は人。甲骨文字・金文の字形は、人の字形の足の部分に短い線を加えて人と区別し、数の“せん、ち” の意味に用いる」

[考察]
人はnienの音、千はts'enなので、人を音符と見るのは無理であろう。無理だとしても、なぜ人が使われているかが問題である。白川は音符と片付けているが、音符ならばなぜ人の足の部分に短い線をつけて数詞になるのか、理屈に合わない。
字形から意味は出てこない。言葉という視点が必要である。
古典漢語における数詞体系は十進法である。十倍ごとに単位名を必要とする。殷代ですでに十、百、千、萬(万)という単位名が現れている。十は基数をひとまとめに締めくくるというイメージで名づけられた。百と萬は多数のイメージで名づけられた。では千はどんなイメージで命名されたか。
古典漢語のts'en(千)は蓁・ 莘・詵などと同源と考えられる。これらは「多い」「盛ん」というコアメージがある。だから千も多数のイメージで命名されたと考えてよい。千を基幹記号とするグループには多数のイメージが含まれている。
 仟・・・千人を一組とする集団
 芊・・・草がたくさん茂るさま
 阡・・・南北にたくさん通る畦道
数詞の1000を古典漢語では一千という。千は桁を示す単位名である。これをts'enという。それに対する視覚記号として千が考案された。
千は「人+一」に分析する。人は個人的な人間ではなく、集団としての人、仲間というイメージのある語である(981「人」を見よ)。だから集団、多数のイメージとして人を使うことができる。人に一を添えて一個の集団を暗示させる。この図形的意匠によって、数詞の1000の桁を表す単位名ts'enを表記した。1000を一千、2000を二千、3000を三千などと呼び、九千九百九十九の次に桁が上がって一萬と呼ぶ。