「仙」

白川静『常用字解』
「形声。もとの字形は僊に作り、音符は䙴。のち仙に作り、山を音符とするが、山に住む人の意味をも含めたものであろう。䙴は死者(襾は頭、㔾は下半身が座る形)を廾(両手)で抱えて遷うつす形。死者を一度板屋に納め、風化するのを待って葬るので、その人を僊という」

[考察]
僊は遺体を板屋に入れて風化してから葬られる人の意味ということであろうか。こんな意味は僊にはない(『漢語大字典』『漢語大詞典』)。この意味から「山中で修行し、仙道を修めた人」の意味になるということも考えにくい。
古典における僊の用例を見てみる。
①原文:屢舞僊僊
 訓読:屢(しばし)ば舞ふこと僊僊たり
 翻訳:何度も軽やかに舞い上がる――『詩経』小雅・賓之初筵
②原文:千歲厭世、去而上僊。
 訓読:千歳世を厭(いと)へば、去りて上僊す。
 翻訳:千年も生きて世の中がいやになったら、この世を去って魂が天に昇る――『荘子』天地
③原文:能神僊矣。
 訓読:能く神僊となる。
 翻訳:仙人になれる――『史記』考武本紀

①は軽やかに舞う、また、空中にふわふわと舞い上がる意味、②は魂が肉体を抜け出てふわふわと天に昇る意味、③は不老不死の人(仙人)の意味で使われている。これを古典漢語ではsian(呉音・漢音でセン)という。これを代替する視覚記号として最初は僊、後に仙が考案された。
僊は「䙴セン(音・イメージ記号)+人(限定符号)」と解析する。䙴の上部の覀は「囟+𦥑」(𦥑の間に囟を入れた形)が変化したもの、大は廾が変化したもの、下部は㔾が変化したもの。𦥑(両手)と廾(両手)を合せると舁になる。だから䙴は「囟+舁+㔾」が組み合わさった形である。囟については633「細」と705「思」で述べたように、赤ん坊の頭蓋骨にある泉門の図形で、「細い隙間」「分かれる」「柔らかい」「ふわふわと軽い」などのイメージを表す記号として用いられる。舁は四本の手(二人の手)の形で、「持ち挙げる」「上に上がる」というイメージを示す記号(340「挙」を見よ。後に「与」で詳述)。㔾はしゃがんだ人(死者を連想させる)。䙴は「囟シン(音・イメージ記号)+舁(イメージ補助記号)+㔾(限定符号)」と解析する。死者の魂が体から分かれ出て空中にふわふわと舞い上がる状況を想定した図形である。これに限定符号の人を添えた僊でもって、上記の①と②の意味をもつsianの表記とした。
周代では僊は①②の意味であったが、戦国末期から漢代にかけて、魂が死体から抜け出て不老不死になる人という観念が発生し、これを僊で表すようになり(③の意味)、漢代になって仙の字体に変わった。これは「山+人(限定符号)」を合せて、山中に隠れ住む人を暗示させる。仙人は天仙(昇天する仙人)のほかに地仙(山中に住む仙人)がいると考えられた。