「占」

白川静『常用字解』
「会意。卜は亀の甲羅の裏がわに、縦長に棗形の穴を刻り、その傍らにすり鉢形に穴を作り、そこを灼いて表面にできたト形のひびわれの形。そのひびわれの形で卜うらなうのである。口はᄇで、祝詞を入れる器の形。神に祈って卜い、神意を問うことを占という」

[考察]
卜という抽象的な図形に上のような多量の情報が詰まっているだろうか。亀卜で現れる甲羅の裂け目だけの情報しかいないだろう。また神に祈るときの文句が祝詞であるが、これは言葉であって、器に入れるものではあるまい。
字形から意味を導くのが白川漢字学説の方法であるが、意味とは「言葉の意味」であって、字形から出るものではなく、言葉が使われる文脈から出るものである。古典における占の用例から占の意味を確かめるのが先である。
①原文:乃寢乃興 乃占我夢
 訓読:乃ち寝ね乃ち興き 乃ち我が夢を占ふ
 翻訳:寝に就いて目が覚めて 夢占いを立てさせる――『詩経』小雅・斯干
②原文:恃程夫人權力、求占山澤以自營。
 訓読:程夫人の権力を恃み、山沢を占めて以て自営せんことを求む。
 翻訳:程夫人の権力を頼みにして、山や沢を占有して自営したいと要求した――『後漢書』劉翊伝

①はうらなって吉か凶かを決める意味、②はある場所や地位・情況などに取りついてそこを離れない(しめる)の意味で使われている。これを古典漢語ではtiam(呉音・漢音でセム)という。これを代替する視覚記号として占が考案された。
占は「卜(イメージ記号)+口(限定符号)」と解析する。卜は裂け目やひび割れの形を示す抽象的、略画的な図形である。亀甲などを焼いた際に急に裂けて割れ目が生じる。これを図形にした。吉凶を知るために亀を使う占いを卜という。口は言葉やしゃべることと関係があることを示す限定符号。したがって占は現れた印によって吉凶をうらなう情景を設定した図形。この意匠によって①の意味をもつtiamを表記した。
①は「うらなう」、②は「しめる」の意味であるが、なぜ②の意味に転義するのか。これを理解するには言葉の深層構造を探る必要がある。これを解明したのは藤堂明保である。藤堂は占のグループ(占・粘・点・覘・沾・霑・店)、炎のグループの一部(淡・痰)、詹のグループ(瞻・胆・担・檐・澹)などは同じ単語家族を構成し、TAM・TAPという音形と、「一所に定着する」という基本義があるという(『漢字語源辞典』)。「定着する」は「くっついて離れない」というコアイメージと言い換えてもよい。吉か凶かのどちらかに定着させ決着させるのが占いの行為であり、一定の場所に定着してそこから離れない行為が占拠の占である。このようにtiamには「定着する」「くっついて離れない」というコアイメージがあるので、①から②への転義が起こるのである。ちなみに白川は「占いによって知ることのできた神意は絶対のものであるから、“しめる、もつ、もっぱらにする”の意味となる」と述べている。神意が絶対のものだから「神意を問う」の意味から「しめる」の意味に転じるというが、この意味展開は合理性がない。