「浅」
正字(旧字体)は「淺」である。

白川静『常用字解』
「形声。音符は戔。戔は細長い戈ほこを重ねた形で、薄いものを積み重ねた状態をいう。浅は“水があさい”ことをいう」

[考察]
細長い戈を二つ重ねた形がなぜ「薄いものを積み重ねた状態」の意味になるのか分からない。また「薄いものを積み重ねた状態」からなぜ「あさい」の意味が出るのか分からない。
字形から意味を導くのが白川漢字学説の方法であるが、意味は「言葉の意味」であって字形から出るものではない。言葉の使われる文脈から出るものである。浅は古典に次の用例がある。
①原文:就其淺矣 泳之游之
 訓読:其の浅きに就きては 之を泳ぎ之を游(およ)ぐ
 翻訳:水が浅けりゃ 泳いで渡る――『詩経』邶風・谷風
②原文:其山之淺有蘢與斥。
 訓読:其の山の浅きには蘢ロウと斥有り。
 翻訳:その山の深くない所にはオオケタデと斥[未詳]が生えている――『管子』地員

①は水かさが少ない(あさい)の意味、②は空間的な幅が狭い(厚みがない)の意味で使われている。これを古典漢語ではts'ian(呉音・漢音でセン)という。これを代替する視覚記号として淺が考案された。
淺は「戔サン・セン(音・イメージ記号)+水(限定符号)」と解析する。戔は「戈(ほこ、刃物)+戈」を合わせて、刃物で物をそいだり削ったりする状況を暗示させる図形。剗サン(削る)の原字である。戔は「削って小さくする」というイメージ、また「小さい」「少ない」というイメージを表す記号になる(676「残」を見よ)。 淺は水かさ(上下の幅や厚み)が小さい状況を暗示させる図形。
意味は「浅い」のメタファーによって、あるいは、「小さい」「少ない」というコアイメージによって、②の意味(浅近の浅)へ展開する。さらに、時間的な距離・幅が少ない(久しくない)の意味(浅春)、物事の程度が小さい意味(浅酌)、知識などが少ない、また思慮が足りないの意味(浅薄・浅見)へ展開する。