「染」

白川静『常用字解』
「会意。水と朶とを組み合わせた形。朶は木の枝葉がたれ下がっている形。この枝葉を水に漬けて色を染めることを染という」

[考察]
字形の解剖に疑問がある。染 の右上は明らかに九であり、朶の上部とは違う。染を水と朶に分析するのは間違いである。字源については諸説があるが、素直に「水+九+木」と分析したい。
字源の前に古典の用例を見る。
①原文:見染絲者而歎而曰、染於蒼則蒼、染於黃則黃。
 訓読:糸を染むる者を見て歎じて曰く、蒼に染むれば則ち蒼、黄に染むれば則ち黄。
 翻訳:[墨子は]糸を染める者を見てこう言った。“青の染料に染めれば青、黄の染料に染めれば黄になる”――『墨子』所染
②原文:荏染柔木 君子樹之
 訓読:荏染ジンゼンたる柔木 君子之を樹(う)う
 翻訳:ひ弱の柔らかい木は もともと君子が植えたもの――『詩経』小雅・巧言

①は色をそめる意味、②は力が抜けてしんなりと柔らかい意味で使われている。これを古典漢語ではniam(呉音でネム、漢音でゼム)という。これを代替する視覚記号として染が考案された。
niam(染)の語源は上の②の用法がヒントを与える。荏染はのちに荏苒とも書かれるように、染と苒は同源の語である。冉のグループ(冉・苒・髥・耼)は「柔らかい」というコアイメージがある。染も「柔らかい」というコアイメージをもつ語である。
次に字源について。「九(イメージ記号)+木(イメージ補助記号)+水(限定符号)」と解析する。九は腕を曲げる図形で、「曲がる」また「くねくね曲がる」というイメージを表すことができる(313「九」を見よ)。木は植物のイメージを添える。水は水に関係があることを示す限定符号。したがって染は植物を水に浸して、それが段々と曲がって柔らかくなる情景を設定した図形。この図形的意匠によって、糸や布を水(染料)に漬けてしんなりと柔らかくし、段々と色をしみ込ませることを暗示させる。