「践」
正字(旧字体)は「踐」である。

白川静『常用字解』
「形声。音符は戔せん。戔は細長い戈ほこを重ねた形で、薄いものを積み重ねた状態をいう。足あとの相重なること、相連なることを践といい、“ふむ、ふみつける、あるく” の意味となる」

[考察]
細長い戈を重ねた形から「薄いものを積み重ねた状態」という意味が出るだろうか。戔にこんな意味があるだろうか。疑問である。「足跡の相重なる」「足跡の相連なる」とはどういうことか。前者は足跡が地面の上に重なるように印されるということか。後者は足跡が一つまた一つと(点々と)連続するということか。説明が舌足らずで分かりにくい。
古典における踐の用例を見てみよう。
①原文:敦彼行葦 牛羊勿踐履
 訓読:敦たる彼の行葦 牛羊践履する勿れ
 翻訳:多く集まる道端のアシ 牛も羊も踏んではならぬ――『詩経』大雅・行葦
②原文:不踐迹、亦不入於室。
 訓読:迹を践(ふ)まず、亦室に入らず。
 翻訳:[善人は]前人の跡を踏まないから、進歩もない――『論語』先進

①は足で踏みつける意味、②は前に行った人の跡を踏みしめる(後に従う)の意味で使われている。これを古典漢語ではdzian(呉音でゼン、漢音でセン)という。これを代替する視覚記号として踐が考案された。
踐は「戔サン・セン(音・イメージ記号)+足(限定符号)」と解析する。戔は「戈(ほこ、刃物)+戈」を合わせて、刃物で物をそいだり削ったりする状況を暗示させる図形。剗サン(削る)の原字である。戔は「削って小さくする」というイメージや、「小さい」というイメージを表す記号になる(1077「浅」を見よ)。「上下の幅が小さい」は「厚みがない」というイメージや「薄い」というイメージに転化する。「薄い」と「平ら」と「くっつく」は可逆的な(相互転化可能な)三つ組イメージである。これは漢語意味論の特徴の一つ。したがって踐は薄く平らな足裏をぺたっと地面にくっつける情景を設定した図形。この図形的意匠によって①の意味をもつdzianを表記した。