「選」

白川静『常用字解』
「形声。音符は巽そん。巽は神前の舞台で、二人の者が並んで舞う形。二人の者がそろって舞うことから“そろう”の意味となり、神前で舞う者は撰ばれた者であるから“えらぶ”の意味となる」

[考察]
形声の説明原理がなく会意的に説くのが白川漢字学説の特徴である。巽(二人が並んで舞う)+辵→二人がそろって舞う→そろうという意味を導く。
巽は二人が舞いをしている姿にはとうてい見えない。なぜ「神前の舞台」なのか。また辵の説明がないが、舞うことは歩くことと関係があるというのだろうか。また「神前で舞う者は撰ばれた者」だから「えらぶ」の意味になったというが、この意味展開に必然性があるとは言えない。
白川漢字学説は言葉という視点がない。意味とは「言葉の意味」であって字形に求めるべきではない。言葉の使われる文脈に求めるべきである。選は古典に次の用例がある。
①原文:之子于苗 選徒囂囂
 訓読:之(こ)の子于(ここ)に苗(かり)す 徒を選ぶこと囂囂ゴウゴウたり
 翻訳:わが殿は狩りに行く 従者選びで大騒ぎ――『詩経』小雅・車攻
②原文:舞則選兮 射則貫兮
 訓読:舞へば則ち選(そろ)ひ 射れば則ち貫く
 翻訳:舞えばリズムにかない 矢を放てば的を貫く――『詩経』斉風・猗嗟

①はえらぶ意味、②はそろう意味で使われている。これを古典漢語ではsiuan(呉音・漢音でセン)という。これを代替する視覚記号しとして選が考案された。
選は「巽ソン(音・イメージ記号)+辵(限定符号)」と解析する。巽は巺の変形である。「A[巺の上部]+丌」に分析する。Aは㔾(=卩。跪く人)を二つ並べ、二人が跪いている図形。丌は其の下部に含まれ、物を載せる台。したがって巽は台の上に人を並べる情景を設定した図形である。この図形的意匠によって「いくつかのものを並べて取りそろえる」というイメージを表すことができる。取りそろえることの前提には基準に合うものを取り上げるという行為がある。辵は歩行・進行に関わる限定符号である。かくて選は基準に合うものや良いものを取り上げてそろえ、それをよそに送る情景を設定した図形。この図形的意匠によって、多くの中から良いものを取り上げる(選り分けて良いものをえらぶ)という意味(上の①)をもつsiuanを表記した。
「そろえる」というコアイメージがそのまま意味として実現されることもある(上の②)。