[禅]
正字(旧字体)は「禪」である。

白川静『常用字解』
「形声。音符は單(単)。説文に“天を祭るなり”とあって、封禅の礼(天子が天地を祭る礼)をいう。禅譲によって位を受けるとき、封禅の礼を行うので、天子の位を“ゆずる” の意味となる」

[考察]
白川漢字学説には形声の説明原理がなく会意的に説くのが特徴であるが、本項では単からの説明がない。不十分な字源説である。
古典の用例を見てみよう。
①原文:桓公既霸、會諸侯於葵丘而欲封禪。
 訓読:桓公既に霸たり、諸侯を葵丘に会して封禅せんと欲す。
 翻訳:桓公は覇者になると、諸侯を葵丘に集めて、祭天の儀式を行おうとした――『管子』封禅
②原文:唐虞禪。
 訓読:唐虞は禅(ゆず)れり。
 翻訳:尭と舜は禅譲によって政権交代をした――『孟子』万章上

①は天を祭る儀式の意味、②は政権を革命や世襲によらず、他人に譲り渡す意味である。これを古典漢語ではdhian(呉音でゼン、漢音でセン)という。これを代替する視覚記号しとして禪が考案された。
禪は「單(音・イメージ記号)+土(限定符号)」と解析する。單は「平ら」というイメージがある(1084「戦」を見よ。後に「単」で詳述)。禪は平らな土壇を暗示させる。この図形的意匠によって、上面が平らな壇を築いて天を祭ることを意味するdhianを表記する。
政権を交代することを「禅(祭典の儀式を行う権利)を受く」といったところから、禅に②の意味が生じた。坐禅や禅宗の禅は梵語dhyānaの音写である。