「繕」

白川静『常用字解』
「形声。音符は善。説文に“補ふなり” とあり、修繕すること、“つくろう”ことをいう。字形からいえば、衣服の類を補修するの意味であるが、武器につてもいう」

[考察]
白川漢字学説には形声の説明原理がなく会意的に説く特徴があるが、本項では善からの説明がない。会意的に解釈できず、字源を放棄している。
まず古典での繕の用例を見る。
 原文:繕甲兵、具卒乘。
 訓読:甲兵を繕ひ、卒乗を具(そな)ふ。
 翻訳:甲冑と兵器を整え、兵卒と戦車をそろえる――『春秋左氏伝』隠公元年
繕は破れた所を直して形を整える意味で使われている。これを古典漢語ではdhian(呉音でゼン、漢音でセン)という。これを代替する視覚記号しとして繕が考案された。
繕は「善(音・イメージ記号)+糸(限定符号)」と解析する。善は「たっぷりと多い」というイメージがある(1097「善」を見よ)。このイメージは「たっぷりと(十分に、不足がなく) そろえる」というイメージに展開する。したがって繕は布や衣の破れた所にたっぷりと(十分に)糸をそろえて当てがう情景を設定した図形である。この図形的意匠によって、欠けた所や足りない所を満たしてうまく形を整える意味をもつdhianを表記した。