「祖」
正字(旧字体)は「祖」である。

白川静『常用字解』
「形声。音符は且。且は俎まないたの形。その上にお供えを並べて祭る俎で、祭られる者、“せんぞ”の意味となる」

[考察]
白川漢字学説には形声の説明原理がなくすべて会意的に説くのが特徴である。会意とはAの意味とBの意味を足し合わせた「A+B」をCの意味とする手法である。且(俎)+示→俎の上にお供えを並べて祭られる者という意味を導く。
示の説明がないが、725「示」では「祭卓の形。示は“かみ”の意味」とある。「祭られる者」とは「祭られる神」なのか「神として祭られる者」なのかはっきりしない。いずれにしてもこれが先祖であるとは限らないだろう。
字形から意味を見ると説明の流れ(意味の取り方)が合理性・必然性に欠ける。意味から字形を見るべきである。では意味はどこにあるのか。意味は「言葉の意味」であることは言語学の常識であろう。言葉の使われている文脈から意味を知ることができる。祖は古典に次の文脈がある。
①原文:王之藎臣 無念爾祖
 訓読:王の藎(すす)める臣よ 爾の祖を念ふ無かれ
 翻訳:王の進め用いる家来たちよ 君らの祖先を思ってはならぬ――『詩経』大雅・文王
②原文:以御田祖 以祈甘雨
 訓読:以て田祖を御(むか)へ 以て甘雨を祈る
 翻訳:農耕を始めた人をお迎えして 雨乞いをする――『詩経』小雅・甫田

①は父から上の世代の重なり(特に初代)の意味、②は国や王朝(また特別な事業)を初めて開いた人の意味である。これを古典漢語ではtsag(呉音・漢音でソ)という。これを代替する視覚記号しとして祖が考案された。
祖は「且シャ・ショ(音・イメージ記号)+示(限定符号)」と解析する。且は一段一段と上に重なっていることを示す象徴的符号である。「(上に段々と)重なる」というイメージを示す記号として使われる(1102「阻」を見よ)。これは空間的なイメージだが、時間的なイメージにも転用できる。過去の方向に年月が重なっているという捉え方である。かくて祖は一代また一代と重なっていく世代を暗示させる。祖先は祭祀と関係があるので限定符号の示(神)を添えた。