「塑」

白川静『常用字解』
「形声。音符は朔。字はまた塐に作り、音符は素。粘土で作った像である塑像、“でく” をいう。素にもとの意味、朔にはじめの意味がある。木の心を原型(もと。はじめ)として、粘土で肉付けした像という意味であろう」

[考察]
朔は「はじめ」、素は「もと」の意味があるから、「木の心を原型として、粘土で肉付けした像」の意味とするが、「木の心を原型にする」というのがよく分からない。原型とはコピーのもとになる「型」のことか。型に粘土を詰めて像を造るのか。しかし塑とはそんな意味だろうか。
塑は中世以後に現れる比較的新しい字で、次の用例がある。
 原文:其塵不集、如新塑者。
 訓読:其の塵集まらず、新たに塑ソする者の如し。
 翻訳:その像には塵がたまっておらず、最近造ったもののようだ――『酉陽雑俎』巻六
塑は粘土をこねて人や物に似せた像、また、それを造る意味で使われている。当時の音でsoといい、塑はそのために作られた視覚記号である。
中世の漢字でも、古来の造形原理に従っていると考えられる。朔のイメージが用いられた。朔は「屰(逆方向に行く)+月(つき)」を合わせて、→の方向に進んできた日が←の方向に行って、月の初めに戻ること、つまり「ついたち」を表している。朔にも「逆方向に行く」というイメージがある。塑は下から上の方向に粘土をこね上げていく情景を暗示させる。