「礎」

白川静『常用字解』
「形声。音符は楚。楚はいばらやしば、また草木の茂みの根の張ったところをいう。それで礎石(いしずえ)という」 

[考察]
形声の説明原理がなく会意的に説くのが白川漢字学説の特徴である。楚(いばら、しば、草木の茂みの根の張った所)+石→礎石(いしずえ)という意味を導く。
「草木の根の張ったところ」から「いしずえ」の意味を導くのは唐突の感がある。説明が舌足らずである。おそらく樹木を支えるものが根で、建物を支えるのが「いしずえ」と見て、両者の間に比喩関係を見たのであろう。
しかし楚に「草木の茂みの根の張ったところ」という意味はない。「叢莽(くさむら)」という意味ならある(『漢語大字典』)。上の字源説は不十分である。
礎の用例を見てみよう。
 原文:山雲蒸、柱礎潤。
 訓読:山雲蒸し、柱礎潤ふ。
 翻訳:山の雲が立ち上ると、建物の基礎が湿る――『淮南子』説林訓
礎は建物の柱を載せる土台(いしずえ)の意味である。これを古典漢語ではts'ïag(呉音でショ、漢音でソ)という。これを代替する視覚記号しとして礎が考案された。
礎は「楚ソ(音・イメージ記号)+石(限定符号)」と解析する。楚は「疋ショ(音・イメージ記号)+林(限定符号)」と分析する。疋は足の図形だが、実体よりも形態・機能に重点を置いて、「二つに分かれる」というイメージを示す記号に用いる(1109「疎」を見よ)。このイメージは「ばらばらに離れる」「一筋ずつ分かれる」というイメージに展開する。図示すると▯-▯の形、あるいは▯・▯・▯・▯の形である。楚は根元から何本も分かれ出る木(叢生する木)を表している。礎では「一筋ずつ分かれる」や▯・▯・▯・▯の形(間を置いて並ぶ)のイメージが用いられる。礎は一つ一つと離れて並ぶ石を暗示させる。この図形的意匠によって上記の意味をもつts'ïagを表記した。