「粗」

白川静『常用字解』
「形声。音符は且。説文に“疏なり” とあり、まだ精選してなくてごみなどの混じった米穀の類、“あらごめ”をいう」

[考察]
白川漢字学説には形声の説明原理がなく会意的に説くのが特徴であるが、本項では且から会意的に説明できていない。字源を放棄した。
まず古典での用例を見よう。
①原文:吾食也、執粗而不臧。
 訓読:吾の食するや、粗を執りて臧(よ)からず。
 翻訳:私の食事は玄米をとり、旨いものはとらない――『荘子』人間世
②原文:食菽與鷄、其器高以粗。
 訓読:菽と鶏を食ふ、其の器高くして以て粗なり。
 翻訳:大豆と鶏を食べる器は高くて粗大なものである――『礼記』月令

①は精白していない米(玄米)の意味、②は隙間が細かくない(精密でない)の意味である。これを古典漢語ではts'ag(呉音でス、漢音でソ)という。これを代替する視覚記号しとして粗が考案された。
粗は「且(音・イメージ記号)+米(限定符号)」と解析する。且は一段一段と上に重なっていることを示す象徴的符号で、「重なる」というイメージを示す記号となる。「(段々と)重なる」は垂直に視点を置いたイメージだが、水平軸に視点を変えると、横に列をなして重なり合うというイメージになる。これを図示すると∧∧∧∧の形である。これは「ぎざぎざ」「じぐざく」「でこぼこ」「不ぞろい」のイメージである。したがって粗は精白していないため表面がざらざらした米を暗示させる。
意味は①から②の意味(粗雑・粗末の粗)に、さらに、形や質がおおざっぱである(あらい)の意味に展開する。粗暴・粗野の粗はこれである。