「倉」

白川静『常用字解』
「象形。穀物などを入れた倉の形。おそらく高床形式の倉であろう」

[考察]
倉の象形文字だから、倉は「くら」の意味だという説。意味が分かっているから、倉を倉の象形文字としたが、もし分からないで「倉」は何を表す図形かと言われれば、多分分からないだろう。
字形から意味を導くのは科学的な文字論とは言えない。これでは言葉がすっぽり抜け落ちている。言葉の視座に立って、「意味→形」の方向に漢字を見るべきである。では意味はどうして知るのか。意味は古典における用例から知ることができる。
倉は語史が古く、次の用例がある。
 原文:我倉既盈 我庾維億
 訓読:我が倉既に盈(み)ち 我が庾ユ維(こ)れ億なり
 翻訳:米倉はすでにいっぱい 稲叢いなむらにも数知れず――『詩経』小雅・楚茨
倉は穀物を貯蔵する建物、また広、物をしまうくらの意味である。これを古典漢語ではts'ang(呉音・漢音でサウ)という。これを代替する視覚記号しとして倉が考案された。
古人は「倉は蔵なり。穀物を蔵するなり」と語源を説いている(『釈名』)。藤堂明保も王力(現代中国の言語学者)も倉と蔵を同源の語としている。穀物などを貯蔵する所だから倉には「深くしまい込む」というコアイメージがある。
次に字源を見る。『説文解字』では口を除いた部分は食の省略形で、口は倉の象形だとしている。口を倉の象形と見るよりは囲いを示す符号とすべきであろう。倉は「食の略体+口(囲い)」と解析する。食糧(穀物)を囲いに入れる状況を暗示させる図形である。この意匠によって上記の意味をもつts'angを表記した。