「捜」
旧字体は「搜」である。

白川静『常用字解』
「形声。もとの字は𢯱に作り、音符は叜そう。叜は祖先を祭る廟(宀)の中で祭祀が行われるとき、手(又)に火を持つ形で、火を執って祭祀を指揮するのは氏族の長老であったので、長老、としよりの意味となる。叜はのち叟の字形となる。暗い所でものを探すときには火を掲げるので、さらに手を加えて捜に作り、“さがす、たずねる”の意味となる」


[考察]
白川漢字学説には形声の説明原理がなく会意的に説くが特徴である。叟(長老、とりより)+手→さがすという意味を導く。「長老」の意味と「さがす」がどういうつながりを持つのかはっきりしない。また、「暗い所でものを探すときには火を掲げる」というのは意味なのかどうかはっきりしない。「さらに手を加えて」とあるから、意味なのであろうが、なぜこんな意味が出てくるのか分からない。
字形から意味を導くのは無理である。というよりは誤った方法である。意味とは「言葉の意味」であって「字形の意味」ではない。意味は言葉の使われる文脈から判断し把握すべきである。
捜は古典に次の用例がある。
 原文:捜於國中三日三夜。
 訓読:国中に捜すこと三日三夜。
 翻訳:三日三晩、国じゅうを捜した――『荘子』秋水
捜はさがす意味である。これを古典漢語ではsïog(呉音でシュ、漢音でソウ)という。これを代替する視覚記号しとして最初はA、後に捜が考案された。
𢯱(捜)の語源について藤堂明保は爪・搔・掃などと同源で「つめ、ひっかく」という基本義があるという(『漢字語源辞典』)。指先で搔き回して物をさぐり求めるというイメージの語がAである。一方、語源意識が変わって、手づるを切れ目なく(細く長く)たどってさがし求めるというイメージの語になった。「搔き回す」から「細く長く伸びる」へのコアイメージの変化に応じて、字体がAから捜に変わった。コアイメージの変化が字体の変化を伴う現象は捜のほかにも例がある。
次に字源を見る。𢯱は「叜ソウ(音・イメージ記号)+手(限定符号)」(篆文の字体)と解析する。叜は「宀(かまど)+火+又(手)」を合わせて、かまどに手を入れて火を搔き回す情景を設定した図形。後に「叟ソウ(音・イメージ記号)+手(限定符号)」(隷書の字体)に変わった。叟は「申+又」に分析する。申は「𦥑(両手)+|」を合わせて、両手で棒を伸ばす状況を設定した図形(954「申」を見よ)。叟は「細く長く伸ばす」というイメージを示す記号になる。したがって捜は細い手づるをどこまでもたどって行って物を求める状況を暗示させる。この図形的意匠によって、手づるをたどってさがし求める意味をもつsïogを表記した。