「挿」
正字(旧字体)は「插」である。

白川静『常用字解』
「形声。音符は臿。臿はすきを土中にさしこむ形。手にすきを持ち、土の中に草木を植えこむことを插といい、“さす、さしこむ、さしはさむ”の意味に用いる」

[考察]
形声も会意的手法で解釈するのが白川漢字学説の特徴である。臿(鋤を土中にさしこむ)+手→手に鋤を持ち、土中に草木を植え込むという意味を導く。
図形的解釈をストレートに意味とするのが白川漢字学説の特徴である。「土の中に草木を植えこむ」は図形的解釈であろう。こんな意味は挿にはない。
插は古典に次の用例がある。
 原文:走伏尸插矢。
 訓読:伏尸に走りて矢を挿す。
 翻訳:倒れた死体に走って行って、矢を突き入れた――『呂氏春秋』貴卒
插は内部に突き入れる(差し込む)の意味である。これを古典漢語ではts'ăp(呉音でセフ、漢音でサフ)という。これを代替する視覚記号しとして插が考案された。
插は「臿(音・イメージ記号)+手(限定符号)」と解析する。臿は「干(棒)+臼(うす)」を合わせて、棒を臼に突き入れる情景。「突き入れる」「内部に割り込む」というイメージを示す記号になりうる。したがって插は内部に物を差し込む状況を暗示させる図形である。