「桑」

白川静『常用字解』
「象形。桑の葉の茂る形。叒じゃくは桑の葉の形。その桑の葉が木の上に茂っている形が桑で、“くわ、くわの木” の意味となる」

[考察]
叒と木に分析できるから象形ではなく、「クワの象形」に限定符号の木を添えた字と見るべきだろう。白川漢字学説には限定符号という概念がない。
字形から意味を引き出すのが白川漢字学説の方法である。桑がクワの意味だと予め分かっているから桑をクワの象形だとしているが、もし意味が分からないとしたら、桑の形がクワを表すと分かるだろうか。意味は字形から出るものではなく、言葉の使われる文脈から出るものである。字形から意味を導く白川漢字学説は「桑はクワの形だからクワの意味」といった同語反復的な字源説になりやすい。
桑の使われた古典の文脈を見てみよう。
 原文:蠶月條桑
 訓読:蚕月桑を条(たお)る
 翻訳:蚕を飼う月にはクワの葉を手折る――『詩経』豳風・七月
蚕との関係から桑がクワであると分かる。クワのことを古典漢語ではsangといい、これを桑という視覚記号で代替し再現させる。
桑は「叒ジャク(音・イメージ記号)+木(限定符号)」と解析する。叒は又が三つ重なった形になっているが、古くは若に含まれる形(口を除いた部分)である。叒は跪いた女が両手で髪を梳かしている姿である(776「若」を見よ)。叒も若も「柔らかい」というコアイメージをもつ記号である。したがって桑は蚕の食べる柔らかい葉をもつ木を暗示させる図形。この図形的意匠によってクワを意味するsangを表記した。