「曹」

白川静『常用字解』
「会意。もとの字は𣍘に作り、㯥そうと曰とを組み合わせた形。㯥は東を二つ並べた形。東は橐(ふくろ)のもとの字。古い時代には、裁判を求めるときは、原告・被告の双方は束矢・鈞金を提出し、もし誓約にそむくときは神罰を受けますという宣誓をして裁判が開始されたのである。東(ふくろ)には束矢・鈞金が入れられ、曰はᄇ(祝詞を入れる器)の中に祝詞が入れられている形で、ᄇを供えて宣誓するのである。曹は裁判に必要な条件がそろって裁判が開始されることを示す裁判用語であり、裁判をつかさどる人を意味した」

[考察]
㯥と曹は音のつながりがあるから形声のはず。白川漢字学説には形声の説明原理がなくすべて会意的に説く特徴がある。㯥(袋を二つ並べた形)+曰(祝詞の入った器の形)→裁判をつかさどる人という意味を導く。
『説文解字』に「獄の両曹なり」とあり、曹は原告と被告の意味とされている。『漢語大字典』も『漢語大詞典』もその意味を一番目に置いている。 しかし古典にそんな意味の用例がない。『漢語大詞典』はなんと西遊記の用例を挙げている。
白川は『周礼』の「両造を以て民の訟 を禁ず。束矢を朝に入れしめ、然る後にこれを聴く」という記載を根拠にしているようであるが(『字統』)、これを漢字の曹に結びつける根拠はない。
古典における曹の用例を見てみよう。
①原文:乃造其曹 執豕于牢
 訓読:乃ち其の曹を造(いた)らしめ 豕を牢より執らしむ
 翻訳:そこで召使いを走らせて 豚を檻から取らせた――『詩経』大雅・公劉
②原文:王賁韓他之曹皆起。
 訓読:王賁韓他の曹皆起つ。
 翻訳:王賁・韓他[人名]のやからが皆起ち上がった――『戦国策』趙策

①は召使いの意味、②は寄り集まった仲間の意味で使われている。これを古典漢語ではdzɔg(呉音でザウ、漢音でサウ)という。これを代替する視覚記号として曹が考案された。
①が最初の意味で、紀元前11世紀頃に遡れる。②は戦国時代に現れた意味である。その後、下級役人の意味、役所の意味を派生する。法曹の曹は軍曹の曹と同じく属僚(下級役人)の意味である。
曹は「㯥ソウ(音・イメージ記号)+曰(限定符号)」と解析する。東は土を運搬する土囊の形である(「東」で詳述する)。これを二つ並べた形が㯥である。特徴のない似たもの同士が並ぶ状況を暗示させる図形で、この意匠によって「ざっと居並ぶ」「ぞんざいに寄せ集める(寄り集まる)」というイメージを示す記号となる。曰は言うことと関係があることに限定する符号。限定符号は図形的意匠を作るための場面設定の働きもある。曹は言いつけて(指図して)仕事をさせるために寄せ集めたものを暗示させる図形。この図形的意匠によって上の①の意味をもつdzɔgを表記した。