「巣」
正字(旧字体)は「巢」である。

白川静『常用字解』
「象形。木の上の鳥の巣に雛がいる形。巣の中の雛の首が三つ並んで見える形で、“す、すくう”の意味となる」

[考察]
巛を雛の首が三つある形と解釈したのは奇抜である。字形から意味を引き出そうとすると勝手な解釈が生まれる。鳥に焦点があるのではなく「す」に焦点があるから、全体を木の上に巣がある形と単純に考えてよい。
字形から出発するのではなく、言葉から出発すべきである。なぜ「す」を古典漢語でdzɔgというのか。これは語源の問題である。藤堂明保は喿のグループ(譟・燥・澡・藻・繰・操)、巣のグループ(巣・剿・勦)、少のグループの一部(鈔・訬)を同じ単語家族にくくり、TSÔGという音形と、「上に浮く、表面をかすめる」という基本義があるとしている(『漢字語源辞典』)。
木の上(表面)に浮き上がったような姿を呈するので鳥の「す」をdzɔgというのである。語史は非常に古く、次の用例がある。
 原文:維鵲有巢 維鳩居之
 訓読:維(こ)鵲に巣有り 維れ鳩之に居る
 翻訳:カササギが巣を造ると カッコウが居すわる――『詩経』召南・鵲巣

「す」を意味するdzɔgを表記する視覚記号が巢である。金文では全体が象形文字だが、篆文では「巛+臼+木(限定符号)」の字体に変わった。巛は三つ並ぶ符号、臼は∪形をしたもの。これに限定符号の木を添えて、木の上(表面)に浮き上がっている鳥の巣を暗示させる図形である。