「創」

白川静『常用字解』
「形声。音符は倉。創は刱の字を形声化したものであるから、刱によって字の意味を考えるべきである。刱は鋳型のわくを刀ではずして中の器を取り出すことをいい、“つくる、はじめる、はじめ”の意味となる。刅が“きず” の意味で、創は形声の字。創はもと槍による“きず”をいう字であった。刅・刱・創は別の字であったが、創だけを使うようになった」

[考察]
創は刱を形声化した字というからには刱と創は同字(異体字)ということになるが、「刱・創は別の字」というのは矛盾している。倉を刱から「鋳型のわくを刀ではずして中の器を取り出す」という意味を導くが、創にこんな意味はない。また創は槍による「きず」の意味だというから、創は会意ということになるが、「槍によるきず」という意味は創にはない。
創の字源説は支離滅裂の感を否めない。
古典における創の用例に当たるのが先決である。
①原文:吳起吮父之創。
 訓読:呉起、父の創を吮ふ
 翻訳:呉起は父の傷を口で吸った――『韓非子』外儲説左上
②原文:君子創業垂統。 
 訓読:君子は業を創(はき)め統を垂る。
 翻訳:君子は事業を創始してそれを子孫に伝える――『孟子』梁恵王下

①は刃物による切り傷の意味、②は物事を始める意味で使われている。これを古典漢語ではts'ïang(呉音でシヤウ、漢音でサウ)という。これを代替する視覚記号しとして創が考案された。
①と②は懸け離れた意味であるが、なぜ同じ言葉なのか。この疑問を解く鍵はコアイメージである。ts'ïangという語は「切り込みを入れる」がコアイメージである。刃物を体内に突き入れたときに生じる傷というのが①の意味である。また素材に切り込みを入れることが制作の最初の行為であるから、始まり、始まる、初めて作り出すという意味が生まれる。これが②の意味である。初や作にも同じ意味展開があり、この転義現象は漢語意味論の特徴の一つである。
創は「倉(音・イメージ記号)+刀(限定符号)」と解析する。倉は穀物を貯蔵する「くら」の意味であるが、実体に重点があるのではなく、形態・機能に重点がある。倉は蔵と同源で、「しまい込む」というイメージがある(1123「倉」を見よ)。このイメージは「深く入る」「深く突き入れる」というイメージに転化し、このイメージからさらに「深く切り込みを入れる」というイメージに転化する。かくて創は「刀を体に深く突き入れて傷をつける情景を設定した図形。この図形的意匠によって上の①の意味をもつts'ïangの表記とした。