「葬」

白川静『常用字解』
「会意。茻と死とを組み合わせた形。茻は草むら、死は死者の胸から上の残骨を拝み弔う形。古くは死体を一時的に草むらに棄て、風化して残骨となったとき、その骨を拾って“ほうむる” ことを葬という」

[考察]
字形から意味を導くのが白川漢字学説の方法である。茻(草むら)+死(残骨を拝む)→草むらに棄てて風化した残骨を拾ってほうむるという意味を導く。
死の解釈の疑問については690「死」で述べた。死は死者あるいは死体と単純に解してなぜいけないか。よく分からない。また古典に証拠のない風葬の習俗から解釈するのも奇妙である。葬に「草むらに棄てて風化した残骨を拾って弔う」という意味はあり得ない。字形の解釈をそのまま意味としている。図形的解釈と意味を混同するのは白川漢字学説の特徴の一つである。
葬は古典に次の用例がある。
 原文:死葬之以禮。
 訓読:死すれば之を葬るに礼を以てす。
 翻訳:[親が]死んだときは礼に従って埋葬する――『論語』為政
葬は死者をほうむる意味である。これを古典漢語ではtsang(呉音・漢音でサウ)という。これを代替する視覚記号しとして葬が考案された。
『礼記』に「葬なる者は蔵なり。蔵なる者は人の見るを得ざるを欲するなり」(葬とは蔵のことで、人に見えないように隠すことである)とあるように、古くから葬と蔵の同源意識があった。倉とも同源で、「しまい込む」というイメージがある。これは「中に入れて隠す」というイメージに展開する。
葬は「茻+死」に分析する。茻は屮(くさ)を四つ重ねて、草むらを示す記号。葬は草むらの間に死体を埋めて見えないようにする情景を設定した図形である。この図形的意匠によって、死者を土の中に入れて隠すことを暗示させる。太古では墓を造らないで原野に埋め、印として樹木を植えたという記載は古典に見える。風葬から葬の字が生まれたわけではない。