「層」
正字(旧字体)は「層」である。

白川静『常用字解』
「形声。音符は曾。曾は甑の形。甑は湯を沸かして蒸気をのぼらせる釜の上に、食材を入れて蒸し器を重ねる二重構造の器である。それで層雲・地層のように、“かさなる” の意味となる」

[考察]
字源説としては妥当である。ただ字形から意味を導く方法には変わりはない。甑を実体として見、比喩に使ったという解釈であろう。
白川漢字学説には言葉という視座がないから、形声の説明原理を欠く。形声も会意的手法で説くのが特徴である。形声の説明原理とは言葉の深層構造に掘り下げ、コアイメージを捉えて、語源的に説く方法である。
層は古典に次の用例がある。
 原文:九層之臺起於累土。
 訓読:九層の台も累土より起こる。
 翻訳:九重のうてなも一盛りの土から始まる――『老子』第六十四章
層は幾重にも重なるという意味から、幾重にも重なったもの、また、重なったものを数える助数詞に使われる。上の例は助数詞である。これを古典漢語ではdzəng(呉音でゾウ、漢音でソウ)という。これを代替する視覚記号として層が考案された。
層は「曾(音・イメージ記号)+尸(限定符号)」と解析する。曾は焜炉の上に蒸籠を載せた蒸し器で、甑の類を図形化したものだが、実体に重点があるのではなく形態・機能に重点がある。「上に重なる」というイメージを表わす記号とするのである。尸は⎾形に垂れたもの(垂れ幕、軒、屋根など)と関係があることを示す限定符号である。したがって層はフロアが幾重にも重なった建物を暗示させる図形。この図形的意匠によって蒸気の意味をもつdzəngを表記した。