「総」
正字(旧字体)は「總」である。

白川静『常用字解』
「形声。音符は悤そう。説文に“聚めて束ぬるなり”とあり、糸の末端のところを結んで房のようにまとめることであるとする。“まとめる、あつめる、すべる、すべて” の意味に用いる」

[考察]
白川漢字学説には形声の説明原理がなく会意的に説くのが特徴であるが、本項では悤から会意的に説明できず、字源を放棄している。
形声の説明原理とは言葉という視座に立って、言葉の深層構造から語源的に説明する方法である。まず古典における用例から総の意味を確かめる。
①原文:王后之五路、重翟錫面朱總。
 訓読:王后の五路は、重翟チョウテキ・錫面・朱総。
 翻訳:君主の五つの車には、二つのキジの羽、錫のめっき、赤いふさをつける――『周礼』春官・巾車
②原文:百祿是總
 訓読:百禄是れ総(す)ぶ
 翻訳:多くの幸いを一手に集める――『詩経』商頌

①は糸を束ねて締めくくったもの(ふさ)の意味、②は多くのものを一つにまとめる(すべる)の意味である。これを古典漢語ではtsung(呉音でス、漢音でソウ)という。これを代替する視覚記号しとして總が考案された。
總は「悤ソウ(音・イメージ記号)+糸(限定符号)」と解析する。 悤については1130「窓」で述べているが、もう一度振り返る。悤は「囱ソウ(音・イメージ記号)+心(限定符号)」と解析する。囱は櫺子窓の形であるが、実体よりも形態・機能に重点がある。空気を小さい穴から通すという機能から、「スムーズに通り抜ける」というイメージ、また「一所にまとめて通す」というイメージを表わすことができる。悤は心の中を何かが通り抜けていく感じを暗示させる(実現される意味は「そわそわして慌ただしい」。怱卒の怱)。悤も囱と同じく「通り抜ける」「一所にまとめて通す」というイメージを表わす記号になりうる。かくて總は多くの糸を一か所でまとめ、締めくくった所から糸の端が通り抜けて垂れたもの、つまり「ふさ」を暗示させる。
意味はコアイメージによって展開する。「一所にまとめて通す」というコアイメージから、多くのものを一つにまとめる意味(総合の総)、全部まとめて、すべての意味(総計の総)に展開する。
悤は忩にも変化する(怱と忩は悤の俗字)。