「槽」

白川静『常用字解』
「形声。音符は曹。曹は原告・被告の二人がともに東(橐の形)に鈞金などを入れ、神に宣誓して裁判が始まることをいう。それで二列に並んだ桶の類を槽というのであろう。馬の“かいばおけ”をいう」

[考察]
原告・被告の二人が神に宣誓して裁判が始まることから、二列に並んだ桶という意味が出るだろうか。槽にこんな意味はない。
白川漢字学説には言葉という視座がなく、形声の説明原理を持たない。だから会意的に説く特徴がある。字形から意味を引き出すから、恣意的な解釈になる傾向がある。
形声の説明原理とは言葉の深層構造から語源的に説く方法である。まず槽の用例を見よう。
 原文:槽空無實。
 訓読:槽空しくして実無し。
 翻訳:かいばおけは空っぽで、中身がない――『易林』巻四
槽は比較的新しく作られた字で、漢代以後に登場する。上の例は「かいばおけ」の意味である。
槽は「曹(音・イメージ記号)+木(限定符号)」と解析する。曹は「ぞんざいに寄せ集める」というイメージがある(1128「曹」、1139「遭」を見よ)。槽は家畜に与える餌を寄せ集めておく木製の器を暗示させる図形である。
「かいばおけ」との形態的類似性、あるいは中に物を入れる機能的類似性により、液体を入れる容器の意味を派生する。これが浴槽・水槽の槽である。