「箱」

白川静『常用字解』
「形声。音符は相。説文に“大車の牝服なり” とあって、車の上の荷受けの箱の意味とする。のち木や竹で作った蓋のある“はこ”をいう」

[考察]
白川漢字学説には形声の説明原理がなく会意的に説くのが特徴であるが、本項では相から会意的に説明できず、字源を放棄している。
形声の説明原理とは言葉の深層構造に掘り下げ、コアイメージを捉えて、語源的に意味を説明する方法である。まず箱の古典での用例を見てみる。
 原文:睆彼牽牛 不以服箱
 訓読:睆カンたる彼の牽牛 以て箱を服せず
 翻訳:まるく輝くひこぼしは 車の荷台をつけていない――『詩経』小雅・大東
箱は車の荷台の意味で使われている。これを古典漢語ではsiang(呉音でサウ、漢音でシヤウ)という。これを代替する視覚記号しとして箱が考案された。
箱は「相(音・イメージ記号)+竹(限定符号)」と解析する。相は「二つのものが▯ー▯の形に向き合う」というイメージがあり、「二つのものが離れて並ぶ」というイメージに展開する(1119「相」を見よ)。箱は車の両側に▯ー▯の形に遮蔽用の板を並べた荷台を暗示させる図形である。
意味はコアイメージやメタファーによって転義する。両側や四方に▯ー▯の形の囲いのある物入れ(はこ)の意味を派生した。