「燥」

白川静『常用字解』
「形声。音符は喿。喿は多くの口(ᄇで、祝詞を入れる器の形)を木につけ、神に捧げて噪がしく祈りの声をあげて祈ることをいう。そのような情況を比喩的に用いて、火によってかわきこげる状態を燥という」

[考察]
喿の解字と意味の取り方の疑問については1142「操」で述べた。
「喧しく祈りの声をあげて祈る」を比喩に用いて、なぜ「火によってかわきこげる状態」の意味になるのか分からない。
字形から意味を求めるのは無理である。むしろ誤った方法である。意味は「言葉の意味」であって、言葉の使われる文脈から求めるべきである。燥は古典に次の用例がある。
①原文:火就く燥。
 訓読:火は燥に就く。
 翻訳:火は乾燥したものに近づく――『易経』乾
②原文:燥萬物者莫熯乎火。
 訓読:万物を燥かす者は火より熯(かわ)けるは莫し。
 翻訳:万物を乾かすものは火よりも乾燥できるものはない――『易経』説卦伝

①は水分がかわく意味、②は水分を蒸発させる(かわかす)の意味である。これを古典漢語ではsɜg(呉音・漢音でサウ)という。これを代替する視覚記号しとして燥が考案された。
燥は「喿(音・イメージ記号)+火(限定符号)」と解析する。喿は1142「操」で述べたように「表面に浮き上がる」というイメージがある。操は火気で水分が浮き上がる情況を暗示させる。