「造」

白川静『常用字解』
「会意。もとの字は艁・A・B に作り、艁は舟と吿とを組み合わせた形。舟は盤の形。告は木の小枝にᄇ(祝詞を入れる器)をつけて神前に掲げ、神に祈ることをいう。盤に供え物を入れて神に薦め、祭ることを艁という。Aは祖先を祭る廟(宀)の前でその儀礼を行うことを示し、Bは廟にお参りしてその儀礼を行うことを示す。それで古くは“いたる”とよみ、廟にお参りすることをいう。造はBの一部を省略した字形である」
A=[宀+艁] B=[辶+艁]

[考察]
告の解釈の疑問については591「告」で述べた。祝詞は口で唱える文句で、言葉(聴覚言語)であるのに、なぜこれを器に入れるのか。告が神に祈る意味だとしたら、口で唱えるはずである。なぜわざわざ祝詞を入れた器が必要なのか。理屈に合わない。
舟を盤と見るのも疑問がある。艁に「盤に供え物を入れて神に薦め、祭る」という意味があるだろうか。また「廟にお参りする」という意味があるだろうか。すべて疑問である。またこのような字解では「造る」の意味が説明できない。
白川漢字学説は字形から意味を導く方法であるが、図形的解釈と意味を混同する傾向がある。意味とは「言葉の意味」であって、字形から出るものではない。字形の解釈を意味とすると、余計な意味素が混入したり、あり得ない意味が引き出されることも多い。字形から意味を引き出すのは間違った方法である。
では意味はどうして分かるのか。言葉の使われる文脈から知ることができる。造は次のような文脈で使われている。
①原文:親迎于渭 造舟爲梁
 訓読:親(みづか)ら渭に迎へ 舟を造りて梁(はし)と為す
 翻訳:[文王は花嫁を]自ら渭水に迎え 舟を並べて橋を造った――『詩経』大雅・大明
②原文:君子深造之以道。
 訓読:君子は深く之に造(いた)るに道を以てす。
 翻訳:君子が深い段階まで到達するにはそれなりの方法がある――『孟子』離婁下
③原文:肆成人有德 小子有造
 訓読:肆(ここ)に成人徳有り 小子造(な)す有り
 翻訳:かくて成人も徳を備え 子どもでさえ仕事ができる――『詩経』大雅・思斉

①はあり合わせの材料をざっと集めて物をつくる意味、②は目的の所まで至りつく意味、③は仕事をなし遂げる意味で使われている。これを古典漢語ではdzɔg(呉音でザウ、漢音でサウ)、あるいはts'ɔg(呉音・漢音でサウ)という。これを代替する視覚記号として最初は艁、後に造が考案された。
造には「つくる」と「いたる」と「なす」の意味がある。これらは一見互いに無関係のようであるが、言葉の深層を探れば緊密な関係があることが分かる。語源的に究明したのは藤堂明保である。藤堂は草、造のグループ(造・糙・慥)、曹のグループ(曹・遭・槽・糟)を同じ単語家族にくくり、TSOGという音形と、「寄せ集め、ぞんざいな」という基本義があるとした(『漢字語源辞典』)。
『論語』に「造次にも必ず是(ここ)に於いてし、顚沛テンパイにも是に於いてす」(慌ただしい時でも、とっさの時でも、ここ[仁]に身を置く)という文言がある。造は「慌ただしい、そそくさと、急な」という意味で、草草・草卒の草と非常に近い。これは「いい加減でぞんざい、粗雑」というイメージである(1121「草」を見よ)。また曹には「ぞんざいに寄せ集める(寄り集まる)」というイメージがある(1128「曹」を見よ)。
次に字源を見る。艁は「舟+吿」を合わせたもの。告については591「告」で述べたが、もう一度振り返る。
吿は「牛+口」というきわめて舌足らず(情報不足)な図形で、造形の意図がはっきりしない。梏(手を縛る枠、手かせ)や牿(牛を閉じ込める枠、檻)などから類推すると、告に「枠をきつく縛る」というイメージが想定される。古人は牛の角が物や人に触れて傷つけないように横木で縛ると考えて衡の由来を説明しているが、告も同じような場面から発想されたと考えてよい(『説文解字』にもこの説がある)。かくて吿は「牛+口(四角い枠)」を合わせて、牛の角を縛る情景を設定した図形と解釈できる。この意匠によって「(枠からはみ出ないように)きつく縛る」というイメージを表す記号となった。艁は「吿(イメージ記号)+舟(限定符号)」と解析する。上記の語源と絡めると、急場の間に合わせに舟を縛って橋をこしらえる情景を設定した図形である。①の用例には艁の図形的意匠がよく現れている。この図形的意匠によって①の意味をもつdzɔgを艁で表記するのである。
艁から造に字体が変わった。字体の変化はコアイメージの変化や意味の転化に対応することが多い。「寄せ集める」「縛る」というイメージは空間的な間隔が近くなり、くっついた状態になる。「近づく」「くっつく」というイメージから、ある場所に至りつくという意味が実現される。これが上の②である。「いたる」は行くことと関係があるので、限定符号を舟から辵(辶)に代えて造という字体になった。
また、最終の点に至ることから、物事を進行させて最終までやってくる、つまり成し遂げるという意味を派生する。これが③である。毛沢東の思想に共鳴した紅衛兵が「造反有理」というスローガンを掲げたことがあるが、この造は「なす」の意味である。